人に物事を教える上で、ぼくが普段意識している『説明レベル』と『理解レベル』の話です。
Twitterで話した所反響があったので、詳しくブログに纏めようと思います。
説明レベルと理解レベル
説明レベル ~どの程度の『嘘』を許容するか~
簡単に言っちゃうと、説明レベルを選択すると言う事は、説明を解り易く抑える為に『どの程度まで意図的な “嘘”*1 を許容するか』と言う事だと思います。
Q:きちんと正しく説明しているのに理解が得られない
厳密に、正確に、正しく教えようとするあまり、解り易さから遠くかけ離れてしまい、説明内容が細かく小難しくなってしまい理解を得られない。
「相手に理解させる」と言う目的を忘れ、「自分が正しい事を述べる」のが目的になっている。
正しい説明を完走しようとするあまり、相手の理解をなおざりにしてしまい、結果何も成果が得られないという本末転倒な事態です。 これでは何の為に、誰の為に説明しているのか、良く解らないですよね。 お互いに暇ではないのですから、出来れば説明した事は理解して欲しいと思います。
何故そんな解り難い説明に走ってしまうのか、それに関してはまた後述しますが、どうすれば相手に効率的に理解して貰えるでしょうか。 *2
A:相手のレベルに合わせた説明を選択する
これは良く言われる事で、目新しい事なんか何も無いですが「相手のレベルに合わせた説明」を選択する事です。それだけです。
冒頭でも述べましたが、その為に「どの程度の嘘を許容するか」と言う事を考えます。
円周率の説明に倣う
解り易い例として、子供に「円周率」を教える場合を考えてみましょう。
仮にぼくが円周率を教える場合、こんな感じでレベル分けします。
(大体みんなもこんな感じになるでしょう。誰だってそーする、俺だってそーする。)
- 円周率は3だよ。
- 円周率は約3だよ。
- 円周率は約3.14だよ。
- 円周率は3.14だけどそれで終わりじゃなくまだ続くよ。
(でも計算する時はめんどくさいから、取り敢えず3.14で十分だよ) - 円周率は少なくとも2より大きく、4より小さい事が確からしい。
- 円周率は3.14 1592 6535 8979 3238・・・という割り切れない値である事が解っている。
- 円周率はπ(非循環無限小数)である。
厳密な正しさと言う意味で言うと、正しく教えているのは数学定数『π』で教えている最後の7番の説明だけです。 現実的には4番と6番の説明も、簡潔な説明に加えて本来はもう少し複雑である旨を伝えているので、良い説明と言えるでしょう。 間の5番の説明に関しては、説明内容に偽りはないものの、具体的な値としては一番アバウトで実用性に欠けますので、間違いではないものの良い説明とは言えないですね。 前半の教え方に至っては、人によっては『嘘教えんな』とまで言われる可能性があります。
でもこれ、いずれの説明も誤っていませんし、嘘を言っている訳でもありません。
相手のレべルに応じた粒度の説明を選択しているだけです。
(もしこれを『嘘』と言うのであれば、まぁ別に『嘘』でも良いです。敢えて言おう、嘘であると。)
ぼくが人に説明する時に気を付けている事
ぼくが人に何か(仕事柄、技術的な話題が多いですが)を説明する時に気を付けている事は以下の二点です。
- 説明レベルを選択する事。
- 上記「円周率」の例えに合わせて、どの粒度で説明しているのかを相手に伝える事。
つまり、
例えば、円周率を約3って教えるくらいのアバウトさで説明すると~~って感じになる。
アバウトじゃないアレを知りたいんであればこのURLに詳細が載ってるから気になるなら目を通しといて。
とか、
簡単に言うと~~って事なんだけど、細かい事を言っていくと~~じゃないケースもある。
円周率を「3.14」って言うようなもんで、実際には「.14 1592 6535…」って続くくらいの例外がある。 円周率のもっと下の桁が知りたくなったら改めて聞きに来て。
みたいな感じで、以下の点を明確にしたうえで、ある範囲内に於いて正しい説明を伝えます。
- 説明した内容が、円周率で言えばどのくらいの確度(粒度・正確さ)なのか。
- 説明内容のどの辺に『便宜上の嘘』があるのか。
- その『嘘』に対する正しい情報を得るにはどうすればよいのか。
技術的な物事をを教える場合も、円周率を教える場合も、本質は同じだと思います。
どの程度相手のレベルに合わせて噛み砕いた説明が出来るかと言う事が大事です。
理解レベル ~説明レベルを選択できるスキル~
ぼくが新人教育なんかで良く使う命題なんですが、『物事を理解していると言う事はどういう事か』と言う命題。
これに対するぼくの答えは『理解しているとは、人に説明出来ると言う事』です。
理解の段階
理解には幾つかの段階があると思ってます。
ざっくりレベル分けすると以下のような感じ*3です。
- 第一段階: 知識的に知っているだけ。
- 第二段階: 知り、使いこなせている。
- 第三段階: 他人に対して説明できる。
(或いは、文章化してアウトプット出来る事。つまり知識の言語化です) - 第四段階: 相手に応じて適切なレベルで説明できる。
前段となる「知識的に知る」とか、実践により「使いこなす」と言うのは、あくまで一人称視点の問題。 対して「他人への説明」は二人称視点が必要になり、難易度が大きく跳ね上がります。
特に、一方通行で説明・アウトプットするだけの第三段階に比べて、第四段階は難易度が高いです。
第四段階では、相手が理解しているか否かを察したり、相手の理解度に応じて補足説明を追加したり、或いはもっと土台の部分で前提条件となる知識が欠けていたらそこまで巻き戻って説明するなど、周辺知識やコミュニケーション能力にも関わって来るので、このレベルを常に実践出来ている人というのは物凄く仕事の出来る人ですよね。
最終段階で必要なこと
第三段階は言ってみれば相手に投げつけるだけのドッジボールですが、第四段階は相手に捕球させる必要があるキャッチボールです。
このレベルで必要になるのが、前述した「説明レベルの選択」になります。
逆に言うと、『相手の理解度に応じて、適切な説明レベルを選択できるようになる事』こそが、そもそもの『理解』の最終段階であると言えます。
前述した段階を仕事に置き換えて例えてみます。
- マニュアルを見ながら作業が出来る。
- マニュアルを見ずとも作業が出来る。
- むしろマニュアルを作る事が出来る。
- マニュアルを作った上で、加えて更に適切な作業指示や説明が出来る。
と言う事になります。
後半になればなるほど、業務をきちんと理解していないと出来ない事ですね。
何故『嘘』を毛嫌いするのか
答えは簡単、下手に嘘(と取られる事)を言おうものなら めっちゃ叩かれるから です。
(*'▽')ふるぼっこだよ!!
厳密正確警察 の存在。
ほんの僅かな嘘もついてはいけない、あらゆる発言は一切の間違いなく、一言一句に至るまで全て正しい事を述べていなければならない、という強迫観念にも似た所があると思います。
これは――匿名のネット上では特に良くある事だと思いますが――、厳密正確警察の活動の賜物*4と言えます。
ほんの僅かな誤りや説明上の省略など、本題とは遠い所にある重箱の隅で、いわゆる「揚げ足」を取って鬼の首を取ったようかのように非難・弾圧する人がいます。
こういうのはその分野の衰退しか生みません、たとえその指摘が技術的に正しいとしても、です。
よく言われる『議論と攻撃を履き違えた人』であり、正しい情報で訂正してあげようと言う建設的な意識からではなく、ただ相手を論破して優越感に浸りたいという意識からの行動と言えます。
(*'▽')いわゆるクソリプだよ!!
どこに潜んでいるか解らない彼ら憲兵に捕まらないように、正しい説明・嘘じゃない説明に固執するあまり、解り難い説明に陥ってしまうと言う事が問題の本質なのではないかと思います。
そして厳密正確警察がネット上だけにいるならまだしも、会社内や職場内にいると大変な事になってしまいますね。。。
Qiitaのガイドラインに学ぶ
この「Qiitaを利用するにあたってのマナー」あたりを100回くらい音読した方が良いと思います。
少なくとも、技術や知識は人をブン殴る道具ではないと思います。